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先日、麻酔科学会から専門医資格に関する衝撃の告知がでました。
麻酔科専門医更新認定の更新要件に「申請時点で単一の医育基幹病院や病院施設に週3日勤務し、麻酔科関連業務に専従していること」という条件が追加されました。
この変更が医療業界にもたらす影響と今後の展開を分かる範囲でまとめていきます。
専門医とは
【研修医・医学生必見】新しい「専門医制度」をわかりやすく解説!
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ざっくりかみ砕くと、ある分野で一定以上の知識・技能を有する医師であることを証明するものです。
「それぞれの診療領域における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」と定義されています。
医師は医師免許さえ持っていれば基本的にはどんな医療行為もできます。(もちろん例外はありますが)眼科を専攻してきた先生が開業するときに内科を標榜しても問題ありません。しかし、それでは誰がどの分野でどのくらいの力量を持っているのかがわかりません。やはり資格が必要ということで、それぞれの診療科や専門分野ごとに、専門医や認定医など様々な資格が存在します。しかし、学会ごとに資格を乱立している状況で、いったいどの資格がすごいのかわからない、質の担保ができないとして問題となっていました。
これを解消するために、2017年からスタートした「新専門医制度」は、今まで乱立していた専門医の資格を統一し、第三者機関が専門医の認定を行い、そのための研修などの条件も設けるようになりました。また、新たな専門医のみを広告とできるように定めます。
これらによって、専門医の質を高め、公の資格として国民に認知されて評価される制度にすることになりました。
新専門医制度の評判は悪い?
こうして始まった「新専門医制度」ですが、現場の医師からの評判はきわめて悪いものばかりです。僕個人としては今のところ、肯定的な先生に出会ったことがありません。
様々な問題点が指摘されているようですが、
- 基幹病院に後期研修医が集中して中小規模の病院に人員が少なくなる
- 都市部の人数制限
- にも関わらず東京一極集中
- 指導医レベルも基幹病院に集中
- 関連病院の研修期間が短すぎてお客様状態
- 内科の専門医制度がローテートになって希望者激減
- 診療科ごとの偏在が顕著
- 中央による医師の統制制度になっている
- そもそもプログラムの質の担保ができてない
などなど‥
僕が把握してないだけでもっとあるのかもしれません。
とにかく、この「新専門医制度」というものは現場の医師からの評判はすこぶる悪いのです。
麻酔科の現状
さて、ここで麻酔科の現状についてみてみましょう。
みなさんが麻酔科についてどのようなイメージを持っているのかはわかりませんが、麻酔の世界は2種類の働き方があります。常勤医とフリーランスです。
医師はひとつの病院に常勤する勤務医だけでなく、非常勤、いわゆるフリーランスと呼ばれる働き方があります。特に麻酔科は手術の前後だけで病棟の管理などが少ないので、フリーランスとして働きやすい業界です。逆に言うと、麻酔科医は開業や自由診療がしにくい(ペインはあるが)ので、病院勤務医以外にはフリーランスになるしかなかったとも言えます。
医師の世界ではなぜか、フリーランスの方が給与が高くなります。フリーランスの麻酔科医は年収3000万の人も珍しくないそうです。一方の常勤医では、毎日働いて当直をこなしても、1300万程度だそうです。
もちろんフリーランスで何千万も稼ごうと思ったら、確かなスキルと半端ない労働時間が必要で、失業のリスクもありデメリットも多いですが、魅力のある働き方ではあります。バリバリ稼ごうと思わないのであれば、週3日程度働くだけで十分生活できるだけは稼げるので、プライベートを大切にしたい医師や子育てをしたい女医さんにも人気だったのです。
フリーランスで稼げるのは確かな技術を持った麻酔科医だけで、ロクなスキルのない「なんちゃって麻酔科医」は簡単な手術しか担当できないので、仕事も面白くないし、イマイチ稼げないとの声も聞きます。
勘違いしてはいけないのが、フリーの麻酔科医が高給で貰いすぎているのではなく、麻酔科に限らず常勤医の待遇が悪すぎるのです。劣悪労働環境に薄給という常勤医の待遇を改善すべきでしょう。ゆるふわママ女医は悪いのか?限界を迎える医師の雇用システムと働き方改革https://spl-med.xyz/motherdoctor
今回の変更はどう影響するのか
お分かりでしょうか?今回の麻酔科専門医資格の認定要件変更は「フリーランス潰し」です。
お偉いさん
専門医資格は、医師の質の担保のはずだったのに、政治利用されているのですね。専門医の資格で医師をコントロールしようとする、フリーランス麻酔科医を妬む存在の影を感じます。
たしかに、医療の質は同じ施設で勤務する方があがりそうですが、そのために専門医資格を利用したことが良くないです。根本解決するには、常勤医の待遇を良くするとか、経済的インセンティブを上げるとかの方法があったはずなのに、縛りつけようとしたから反発の声が多数上がっています。
しかも、麻酔科医は全体的に不足しているので、小規模の病院では常勤の麻酔科医を雇う余裕がなく、フリーの麻酔科医で手術を回しているところも少なくありません。フリーの麻酔科医が単一施設勤務になると、そうした病院は手術ができなくなってしまいます。
麻酔科医の動向は、手術、外科全般にもろに影響します。自家麻酔をやっていた昔と違い、今どき麻酔科医がいないとろくな手術はできません。地方の病院から麻酔科医がいなくなり、手術ができなくなると外科医もいなくなります。外科がない病院は救急や内科の重症例も受け入れられなくなり、地域医療が崩壊する可能性も孕んでいます。
フリーランスとして実力と評判を確立した医師にとっては、
①形だけ週3日勤務となる病院に籍を置き、フリーを続ける
②専門医資格の更新をやめ、今まで通り働く
パターンが考えられ、あまり影響はなさそうですが、これからフリーランスの麻酔科医を志す医師は減るでしょう。長期的に麻酔科の人数が減ってしまうのではないでしょうか。
他の専門医制度も医師のコントロールに使われるのではないかという懸念
今回の麻酔科の専門医資格の変更から垣間見える学会の圧力は、他の新専門医制度でも同様かもしれません。権力を失いつつある医局や学会が、医師の働き方や勤務形態、勤務地域を専門医資格によってコントロールしようという思惑を感じます。
こうした流れが続けば、ただでさえ不人気な専門医制度は形骸化するかもしれません。実際、僕の周りの医学生はシビアに現実を見つめています。今回の件で麻酔科志望は確実に減りましたし、そもそも専門医資格の必要性を疑問に感じている人もいます。
医局やお偉いさんが、医療の現実を直視せず、自分たちの既得権益を守るために若手の自由を制限しようとすれば反発されるのは目に見えています。そうなったときには、医療は崩壊するでしょう。
本当に患者のためになる医療、そのためにはどうしたらいいのかを今一度考え直すときなのではないでしょうか。
フリーランスの医師の一部が、今までやり過ぎた気がします。時間と労力の要る、しかし数字として評価されにくい仕事(例えば教育)をせず、自分は無償の教育をたくさんしてもらったのに下には還元せずに高給を取っていく。
正直なところ「ざまぁ」って思っている麻酔科医や外科医も多いと思います。専門医制度は嫌いですけどね。
フリーの医師の確保については、むしろ医局の力が強い時のほうが、市中病院は低コストで人を雇えました。以前は町中の小さい病院でも医局にお願いして麻酔科に来てもらうことが出来たのです。フリーランスの麻酔科医の一部は、医局から派遣されなくなった病院から法外なカネを毟りとっています。でも手間のかかる術後疼痛管理なんてしたがりません。市中病院の外科医に聞いてみてください。彼らは困っている病院に手を差し伸べるヒーローですか? いいえ、ハゲタカです。